就職活動を意識して多くの人が様々な資格を取得しています。その中でも受験者数が多く、注目されているのが日商簿記です。
では、どの分野で就職を希望している学生にお薦めなのでしょうか。
この記事では、まず日商簿記がどのような資格なのかを説明し、就職活動や職場での優位性、キャリアップなどで活かせるのかを深く掘り下げて説明します。
簿記資格の取得を考えているみなさんの参考になれば幸いです。
簿記ってなに?
まず、簿記について簡単に説明します。簿記とは、事業を行う個人や団体が経営活動を記録や計算、整理などをして、財務状態を明らかにする作業や技術です。また、通常、簿記というと複式簿記を意味することがほとんどです。複式簿記は、取引の二面性に着目し記録を行うことです。
簿記の作業は一定の原則にもとづいて行われる、専門性が必要な作業のため、誰もができるわけではありません。さらに、簿記を理解できる人材になるためには、一定程度の時間と労力が必要となります。
つまり、簿記資格は試験に合格すれば与えられます。その上で簿記の原理と、経営活動の内容を理解できる人材になるために、実務を身体で覚える必要があります。
一般的なのは日商簿記
日商簿記検定は、日本商工会議所と各地の商工会議所が共催で行っている検定試験です。1954年から試験が始まり、これまで2,700万人以上の受験生が試験に挑みました。
実務に即した検定試験で、経理事務や財務状態の把握などの知識が身につくため、就職・転職活動が有利になったり、キャリアアップに利用されたりします。
日商簿記の他には、公益社団法人 全国経理教育協会主催の「全経簿記能力検定試験」、公益財団法人 全国商業高等学校協会主催の「全商簿記実務検定試験」があります。しかし、一般的に簿記資格と言えば、「日商簿記」と考えて間違いないでしょう。
就職に役立つのは2級以上
日商簿記は、1~3級、簿記初級、原価計算初級の階級にわかれています。2級と3級は年3回、1級は年2回試験が行われており、簿記初級と原価計算初級はネット試験のため不定期で試験が行われています。
就職活動などでアピールする場合には2級以上が望ましいとされています。
なお、簿記初級と原価計算初級は極めて初歩的な検定試験のため、この記事では詳細について説明は省略します。
難易度は?
各級の合格率と目安となる勉強時間は下記の通りです。
級 |
合格率 |
目安となる勉強時間 |
1 |
10%前後 |
500時間 |
2 |
20%前後 |
300時間 |
3 |
50%前後 |
100時間 |
3級は合格率が50%前後で、比較的難易度の低い試験です。大学で関連した学問を専攻している学生なら、本格的な試験勉強をしなくても合格できるでしょう。
2級は合格率が20%前後で、比較的難易度の高い試験です。試験勉強をしっかりと行って受験に望んだ方が良いでしょう。資格取得のためのオンライン講座やスクールを利用する人もいますが、独学での試験勉強でも合格する人が多いです。効率性を重視するならオンライン講座・スクールの利用、経済性を重視するなら独学と言えるでしょう。
1級は合格率が10%前後でかなり難易度の高い試験です。独学での試験勉強で合格する人もいますが、資格取得のためのオンライン講座やスクールを利用する人が多いです。確実に合格したいのなら、迷わずオンライン講座やスクールを利用した方が良いかもしれません。
日商簿記は就職活動で有利?
就職活動を有利にするために、多くの大学生が日商簿記を取得していますが、どのくらい就職活動に影響するのでしょうか。
役立つ業種は金融業や商社などです。これらの企業は財務状態の把握や経営分析ができる人材を求めているので、日商簿記は就職活動で良いアピールになるでしょう。新入社員全員に3級の取得を義務付けている商社もあるので、就職活動の時点で日商簿記を取得していることの意味は大きいです。
また、経理部門を目指すのであれば、就職活動で日商簿記は有利に働くでしょう。
ただ、就職活動で役立つという観点からすると、2級以上を取得しなければ意味がないでしょう。簿記の基礎的な部分の知識しか問われない3級では、企業に与える印象は薄いかもしれません。それほど、2級と3級の差は大きく、簿記資格と言えば、2級以上を意味すると言って間違いないほどです。
簿記2級が活かせる職種・職務とは
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経理職
経理職の主な職務は、現預金の管理や伝票起票、元帳作成、月次・年次決算作成、税務関連書類の作成、役員会議資料作成などです。
経理職として職務を行う上で、簿記の知識が無ければできない職務を全うできない、と言っても言い過ぎにはならないでしょう。経理職として活躍するためには、簿記の知識を高めなければいけませんが、その最良の方法の一つが簿記試験に合格することです。なぜなら、試験に合格するということは、評価されるレベルの簿記の知識が備わったということだからです。
一般企業であれば2級で十分ですが、大企業での活躍を目指すのであれば1級を取得した方が良いでしょう。
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財務職
財務職の主な職務は、資金の調達(銀行からの借り入れ・株式市場から調節調達など)、資金の管理(会社資金の現状把握)・資金運用(不動産投資・証券投資など)などです。
財務職として職務を行う上で、必要なのは金融の知識です。ただ、簿記の知識があれば経理職との職務の面でのコミュニケーションがとりやすいことは間違いありません。
また、大企業であれば財務部と経理部にわけて職務を行いますが、中堅・中小企業であれば一つの部署で、財務と経理の両方の職務を行うことが多いです。やはり財務の職務を希望している人も簿記2級を取得た方が良いでしょう。
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会計事務所・税理士法人職員
会計事務所・税理士法人職員の主な職務は記帳代行や税務申告などです。
会計事務所・税理士法人職員は、会社や個人事業主に対して上記業務をサービスとして提供しています。記帳代行は当然のことながら簿記の知識が必要です。税務申告には税金の知識が必要ですが、申告額を計算するための基礎として簿記の知識が必要となってきます。
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その他
上記で説明した職務以外でも、簿記の知識が必要ないように思える、営業職や販売職、コンサルタントなどの職種でも、簿記の知識を活かすことができます。
簿記の知識は汎用性が高いので、簿記2級が取得できれば、様々な分野で活躍できるでしょう。
アピールの方法は?
しかし、日商簿記を取得しているからと言って、就職活動で内定を獲得できるわけではありません。なぜ、取得したかという理由が重要になってきます。日々の大学や学外での学びの中で、何を感じ、感じたことをどのように学びにつなげたか、その中で、資格の取得を学びと関連付けて説明することが大切です。
さらに、経済・経営学を専攻している学生であれば、会計学や経営分析などの簿記関連の授業を履修していると、企業側に良い印象を持たれるでしょう。資格の取得と関連させて、計画的に簿記の勉強をしている様子を、企業側に印象付けられるからです。
簿記は就職した後も役に立つ
経営分析ができるようになる
財務状態の把握や経営分析的な思考は、ビジネスパーソンにとっては無くてはならいなツールです。その思考の根拠となるが簿記・経理の考え方です。管理職や経営者層を目指すビジネスパーソンなら、簿記の知識や理論をしっかりと身につける必要があります
転職・キャリアアップができる
経理の仕事は、簿記の知識がないと仕事すらこなせないと言えるでしょう。また、関連性の高い財務の仕事でも、簿記の知識は仕事をするうえで欠かせないものと言えるでしょう。
さらに、昇給や昇格だけでなく、転職においても簿記資格は重要です。経理部門への転職で重要視されるのは、実務経験と簿記資格です。経理部門の求人広告を見ると、実務経験と簿記資格の両方を求めていることがわかります。
その上、経理の仕事は専門性が高いので、将来性を期待された人材が配属されることが多く、将来的には監査役や事務系役員の道も開けてきます。
他の会計職へステップアップ
簿記の知識をさらに高めることによって、経理職から税理士・公認会計士へステップアップすることも可能です。税理士・公認会計士は難関試験ですが、日々の経理の仕事が試験勉強に活かしながら試験勉強を行うことができます。
簿記を活かして起業も
簿記の知識を得ることによって、事業計画や財務状態の把握などの、経営者層に必要な知識が身にきます。この知識は将来的に起業を目指している人とっても必要です。なぜなら、新規事業が利益を生み出すかという判断ができるようになるからです。
営業・販売・開発の仕事にも
簿記とは一見関係のないように思える、営業や販売、開発などの仕事においても、原価と売価の関係性という簿記的な視点が必要となります。このように、お金にかかわる職種であれば、簿記の知識があると有利でしょう。
資格取得者の感想


まとめ
いかがでしたでしょうか。日商簿記について就職活動という視点から説明をしました。
それでは最後に、重要なポイントをまとめておきましょう。
- 就職活動でアピールしたいなら日商簿記2級以上が望ましい
- 主に活かせるのは経理職や財務職、会計事務所・税理士法人職員など
- 就職後のキャリアアップにも役立つ
簿記は経理職だけでなく、多くの職種で役立つ知識と言えるでしょう。ただ、数日勉強したら理解できるという物ではなく、一つ一つ理解し身につく知識であるため、計画的な勉強が必要です。その勉強の中で、簿記資格が取得できれば、簿記を身につけていることの証明になるだけでなく、就職活動や大学での研究にも活かせることは間違いないでしょう。
就職してから簿記資格を取ろうとすると、勉強と仕事との両立が大変ですので、時間のある学生の時に勉強をして、取得することをお薦めします。その際に、自分の適性や経済的・時間的余裕から、独学で勉強するのか、スクールを利用して勉強するのか判断が必要です。だた、どちらを利用するにしても、しっかりと勉強計画を立てて勉強をすることが、資格取得をする近道となります。
■監修者より一言
就職活動やキャリアアップという点で簿記を考えたときには、やはり日商簿記2級を持っていると一目置かれるでしょう。受験界以外では、まだまだ「出題区分の変更」の認識が少なく、簡単に取得したのだろうと評価する企業もあります。
しかし、しっかりとした人事部があって採用活動に力を入れている企業では日商簿記2級の評価はとても高いものになっています。新卒でも既卒でも十分なアピール材料になりますので頑張って挑戦してみましょう。
そしてキャリアアップに欠かせないのが工業簿記・原価計算の知識です。商業簿記の知識は多くの人が学びたがりますが。しかし実務では管理会計(経営カイゼン、コストダウン、在庫管理、原価計算)ができる人が製造業で求められています。
実務では日商簿記合格者の原価計算のレベルで入門レベルです。会社が「管理会計担当者として育てていこう」というときに基礎知識がある人材は有利になります。
カイゼンを断行できる社員になるため、簿記検定はいいステップになります。ぜひ受験を考えてみることをオススメします。

監修 川村秀俊(講座講師)
仙台大原簿記公務員専門学校を卒業後、仙台市内の税理士事務所に勤務。各種税金の計算及び申告、会計指導などの補助にあたる。その後は資格のDAIEIで日商簿記講座の講師を務め、教室でのライブ講義も担当。現在は出身地である気仙沼に戻り、Webワーカー兼簿記家庭教師として活動している。