行政書士とは、よく「街の法律家」と称されている仕事で、法律について幅広い知識を有し、クライアントの依頼を受けて法律を基盤とした各種手続きや許認可などの書類を作成します。
行政書士になるには、毎年11月に行われる行政書士試験を受験して合格してからなるのが一般的ですが、これは毎年4万人前後もの人が受験する人気国家資格の一つです。
今回は、行政書士の仕事内容や資格を取得するメリット、年収などについて詳しくお話ししていきます。
行政書士の仕事
行政書士というと、一般的には「書類作成」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、行政書士の業務はそれだけではありません。
行政書士の仕事は、主に以下の三つに大別されます。
- 官公庁へ提出する書類などの作成
- 作成した書類の代理提出
- 依頼された書類作成に関して法務的観点から相談に応じる業務
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
官公庁へ提出する書類などの作成業務
国や地方公共団体などに提出しなければいけない具体的な書類としては、建築会社が必要とする建設業許可の申請書や、会社を設立する際に必ず作成しなければいけない定款などがイメージしやすいかもしれません。
また、外国人が観光目的ではなく、在留するための諸手続き(在留資格認定証明書交付申請や在留資格変更許可申請など)や、日本国籍取得のための帰化申請なども、本人が行うのが難しい場合、委任を受けた行政書士が書類作成を行うことが可能です。
他にも、遺言書や示談書、各種契約書などの権利義務に関する書類作成にも携わります。
作成した書類の代理提出
官公庁へ提出する書類は、申請者本人が行うのが原則ですが、依頼人の委任があれば代理人が提出することも認められている手続きがあります。このような場面では、提出のみすれば良いわけではなく、役所側による是正の指摘や要請などもあり得ますから、役所との折衝能力も求められます。
依頼された書類作成に関して法務的観点などから相談に応じる業務
会社を設立する際の定款作成などの設立に必要な手続きに関する相談を受け、法務的な観点からアドバイスをしたり、相談に応じるのも行政書士の業務のひとつです。また遺言書作成の際に、遺留分や寄与分など遺産分割に法的な問題がないかなどの相談に応じることもあります。
行政書士資格を取得する5つのメリット
独立・開業できる
官公庁へ提出する書類について年々その種類は増えてきており、手続きも複雑化する中で、行政書士が活躍する場面は多くなっています。
行政書士法人などに雇用される勤務行政書士もいますが、行政書士はもともと独立を前提としている部分がありますから、一国一城の主を目指す人にはぴったりの資格だと言えるでしょう。
もちろんある程度の実務経験は積まなければなりませんが、下積みを重ねて地道にクライアントを獲得することで、独立開業をスムーズに進めることができます。現在会社勤めをされている方で、キャリアアップの手段として独立開業を目指すのならば、行政書士資格は比較的挑戦しやすい資格だと言えます。
独占業務がある
行政書士にも、弁護士や司法書士などと同様に独占業務が存在します。行政書士法で定められている行政書士の独占業務は下記の3種類です。
1.官公署に提出する書類の作成
建設業の許認可や自動車関連の手続き、飲食店営業などの許認可手続きが代表的でしょう。産業廃棄物処理関連施設にまつわる許認可手続きも、近年注目されている行政書士の業務のひとつです。
2.権利義務に関する書類の作成
相続の遺産分割協議書、売買賃貸借などの各種契約書や、念書・示談書の作成、クーリング・オフの内容証明手続きなどが該当します。また、特定行政書士のみに認められている行政審査請求書の作成も、この分野に含まれます。
3.事実証明に関する書類の作成
行政書士が作成する事実証明に関する書類の種類としては、土地購入手続きの際の各種図面類、交通事故の調査書、会社・法人設立の際の定款や議事録、会計帳簿・決算書類などが挙げられます。
これらの業務の中には、例えば会計帳簿や決算書類の作成、就業規則の作成などのように、他の士業との共同独占業務も存在するため、行政書士の資格を取得するとより仕事の幅が広がるといえます。
信用度が高い国家資格である
行政書士資格は法律に関する国家資格ですから、就職や転職にも有利になります。国家資格を持っていると、国や関連機関が実施する各種の資格試験においてある程度の成績を収めた事の証明になりますから、就職や転職の際の採用側の評価ポイントの一つになります。
また、幅広い法務知識を持っていることで、コンプライアンスが重視される現代においては、キャリアアップや将来の独立開業を見据えた上での転職活動でも有利になりやすいでしょう。
法の知識が身に付く
私たちの生活と法律は、切っても切り離せない関係にあります。
自分で開業したり、家を建てる際に役所に許認可の申請を行う際にはもちろんのこと、日常生活においても、どのような行動が違法になるのか、トラブルが起きた際にどのようにすれば法的解決が可能なのかなど、法律の知識があれば非常に役立つことが実感できるのではないでしょうか。
例えば訪問販売のクーリングオフや遺言書などの知識があれば、未然にトラブルを防ぐことも可能となります。
ダブルライセンスを目指しやすい
行政書士試験では幅広い法律分野から出題されるため、ダブルライセンスを目指しやすいと言われています。
例えば司法書士試験では、憲法・民法・商法が行政書士試験と重複しています。重複科目があると、効率よく学習を進めることができます。同じように重複科目がある資格としては、民法が重複する宅地建物取引士が挙げられるでしょう。
また、直接的に資格の試験科目の中に重複するものがなくても、業務範囲の拡大を狙った場合に他の資格と相性が良い場合もあります。
そのため、スキルアップや同業者との差別化を狙い、社会保険労務士やファイナンシャルプランナーなど他の資格とのダブルライセンス・トリプルライセンスの行政書士も増えています。
行政書士の年収
行政書士の平均年収は600万円前後と言われていますが、あくまでも目安であって、厚生労働省の賃金構造基本統計調査などに基づく数値ではないと言われています。
行政書士の中にはダブルライセンサーとして活躍する行政書士も多いため、単純に行政書士の単独業務のみの収入を調査するのは難しいのが現状です。
行政書士法人などに雇用されている勤務行政書士の年収は、非正規雇用の行政書士なども含まれるため、400万円前後で推移しているようです。
一方、独立開業の行政書士は、他業とのダブルライセンス次第で数千万円もの収入になることもあります。
しかし、専業で業務に従事している行政書士だと200万円~300万円に止まるケースも珍しくありません。
年収差の要因
なぜ、ここまで年収に差が出るのかという要因ですが、元々行政書士の報酬については任意制だというのがまず考えられます。
また、依頼案件に対する報酬の相場が、例えば契約書の作成だと1万円程度であるのに対し、産業廃棄物処理業の許可申請においては数十万円と、引き受ける案件によってかなり幅があります。
以下が報酬額の平均値になります。
仕事内容 | 報酬額 |
建設業許可申請 | 50,000~100,000 |
遺産分割協議書の作成 | 50,000 |
契約書作成 | 10,000 |
NPO法人設立認証申請 | 150,000 |
風俗営業許可申請 | 50,000~300,000 |
介護保険施設開設許可申請 | 100000~ |
宅地建物取引士資格登録申請 | 30,000 |
医薬品製造販売許可 | 337,333 |
会社設立 | 100,000 |
産業廃棄物処理業
許可申請〔最終処分〕 |
650,000 |
このように、どのような案件を得意とするかによって年収にも大きく違いが出てきますので、 平均年収はあくまでも参考値として捉えるのがおすすめです。
行政書士に適した人物
国家資格を所持していると、他の応募者との差別化をつけるのに有利であるというのは言うまでもありません。就職や転職を有利に進めたい人にはもちろんのこと、将来的には自分で起業したい人などにも向いていると言えるでしょう。
またすでに他の士業で活躍している人でも、自身がダブルライセンサーとなることによって、クライアントに対して各種申請の段階からその後のフォローまでワンストップサービスを行えるようになるので、 非常に喜ばれるはずです。
まとめ
それでは最後に、行政書士資格のメリットについてまとめておきましょう。
- 独立・開業できる
- 独占業務がある
- 信用度の高い国家資格である
- 法の知識が身に付く
- ダブルライセンスを目指しやすい
いかがでしたでしょうか。行政書士は国家資格でありながら、弁護士や司法書士など他の法律系の士業と比べると、試験の難易度も比較的易しいと言われています。
また、法律系の資格は受験資格が定められていることが多いのですが、行政書士は受験要件がほとんどありません。極端に言えば、未成年でも外国人でも受験することが可能です。
就職・転職において他の志望者と差別化を図りたい方や、キャリアの向上を狙いたい方、独立開業を目指す方は、行政書士の資格取得を検討してみてはいかがでしょうか。
■監修者から一言
行政書士の業務は、様々な種類の許認可申請から、生活に身近な遺言や契約書作成まで幅広くあります。取り扱える書類は1万種類以上とも言われています。
業務の幅が広いため、行政書士は、自分の経験や知識を活かして、それぞれ得意分野で活躍しています。会社員での経験などを活かすことができる点で、とても魅力的な資格です。
法律は改正等があり、行政手続きも変わっていきます。しかし、行政書士試験で、法律の基本を学び、どのように勉強すればいいのか身につけることで、新しい法律でも、自ら学び対応することができるようになります。これは、生活の上でも役に立つ力です。
収入は、人によって大きな差があり、業務の仕方も人それぞれです。ダブルライセンスや一般企業に勤めながら、副業として行政書士を行っている人もいます。柔軟な働き方ができるのが行政書士です。

監修 石井麻里(行政書士)
兵庫県三田市で開業している行政書士。2017年に行政書士登録。
主に相続・遺言、ビザ申請や帰化申請、HACCP(食品衛生)など幅広く取り扱う。