税理士は、税務のプロフェッショナルです。企業、個人を問わず、税金やその制度と無縁ではいわれません。税務書類や税務上の様々な問題について頼れる存在である税理士ですが、果たして資格試験に独学で合格することは可能なのでしょうか。
この記事では、税理士試験に独学合格することは可能なのか、また合格に必要な勉強時間などを解説していきます。
税理士は独学で目指せるのか
税理士の合格率と勉強時間
令和元年度の税理士試験の合格率は18.1%です。
(参照:国税庁 令和元年度(第69回)税理士試験結果)
税理士試験は、会計や税務に関する11科目が出題されます。そのうち、5科目に合格しなければなりません。各科目の平均合格率は10~20%程度であり、いずれの科目も難易度が高いと言えます。
以下に各科目の合格率と勉強時間の目安を示しましたので参考にしてください。
科目 | 令和元年度合格率 | 平成30年度合格率 | 勉強時間目安(時間) | |
必須科目 | 簿記論 | 17.4 | 14.8 | 500 |
財務諸表論 | 18.9 | 13.4 | 500 | |
選択必須科目 | 所得税法 | 12.8 | 12.3 | 600 |
法人税法 | 14.7 | 11.6 | 700 | |
選択科目 | 相続税法 | 11.7 | 11.8 | 500 |
消費税法 | 11.9 | 10.6 | 300 | |
酒税法 | 12.4 | 12.8 | 200 | |
国税徴収法 | 12.7 | 10.7 | 150 | |
住民税 | 19.0 | 13.5 | 200 | |
事業税 | 14.8 | 11.0 | 250 | |
固定資産税 | 13.7 | 14.9 | 250 |
こう見ると、1科目に合格するだけでも数100時間の勉強が必要です。実際、1科目ずつ受験できる制度になっていますから、資格取得までは長い道のりであることがわかるかと思います。総勉強時間は大体3000時間、長い人なら5000~6000時間もの勉強時間が必要だと言われています。
独学での合格は難しい
以上のことを踏まえると、独学で合格を果たすことは極めて難しいと言わざるを得ません。
現実として、税理士を目指すほとんどの方が大学や大学院、または資格学校や法律系スクールに通って勉強しています。
民間の資格学校などでは、初学者向けから既習者向けまで多くのコースが用意されています。平均すると、2年程度の期間で一通りの範囲を学ぶことができます。
夜間や週末に生講義を実施するコース、WEB動画で講義を視聴するコース、さらに通信講座など、学習環境に合わせて選択できるようになっています。
独学で合格を果たすことも、決して不可能ではありませんが、効率性を考慮すると上記にあげたような予備校や通信講座から自分に適したものを利用する方が良いでしょう。
では次に独学のメリットとデメリットを紹介しましょう。
独学のメリット
費用を抑えられる
独学の最大のメリット、それは費用を最小限に抑えられるということでしょう。
税理士試験対策の専門学校や予備校は複数あり、またコースも様々ですが、年間10〜30万円程度の費用がかかります。しかも税理士試験は難関なので、1年では合格できないことがほとんどです。短くて3年、長いと10年以上かかる人もいます。そうなると100万円以上かかることも十分にあり得るのです。
独学の場合はどうでしょうか。テキストや問題集、単発で利用する記述対策などの費用を含めても3〜5万円以内に収めることも可能でしょう。
ただ、経済的に許せば通信講座などを利用することで、学習効率を上げることを検討なさっても良いでしょう。
自分のペースで勉強できる
独学であれば勉強の内容やスケジュールなどを自分で管理し、コントロールすることができます。
基礎的な素養や知識量などには個人差がありますが、予備校などでは一定水準の内容を一律に進めていきます。また、税理士試験の場合、各科目で計算問題、理論問題の出題量の違いなどで個人差がよりはっきりとしてきます。
このように、一律のコース学習では、各科目の勉強が進むほどに個人差が広がるため、自分のペースで進められる独学のメリットは大きいと言えるでしょう。
働きながらでも勉強できる
独学のメリットは、勉強をする時間を自由に調整できることです。
特に社会人として、働きながら目指す場合、夜間や休日に行われる講座でも、仕事の都合によっては通うのが困難な場合もあります。
また、資格取得までに数年以上かかることもあります。多くの場合、受験勉強と仕事の両立をしなければならなくなります。
独学のデメリット
モチベーション維持が難しい
税理士試験は、一度に必要な5科目の合格を果たすことは極めて困難です。1年に1~2科目ずつ合格していく人がほとんどです。
各科目は合格すれば生涯有効です。最初から「1年に1科目合格」という長期計画で取り組む人もいます。当然、勉強する期間も長期になりがちで、民間の資格学校でも5年のコースもあります。
独学の場合、より長期になる可能性があり、勉強を継続するためのモチベーションの維持は極めて困難だと言えるでしょう。
税法科目の勉強が困難
税理士試験の出題科目は、簿記論などの会計分野と、所得税法などの税法分野に分かれます。
まず会計分野は、一般に販売されているテキストが多数あり、独学でも十分に対策が可能です。
一方、税法分野は各種税制が毎年改正されるため、書店で販売されているテキストでは最新の情報が反映されていません。資格学校などではそうした情報が提供されます。独学の場合、自分で情報収集しなければなりません。
受験資格を得る準備が必要
税理士試験には受験資格があります。学歴や職歴、保有資格などでいずれかの条件を満たす必要があります。
大学の経済学部や法学部に通うことなく、独学で目指す場合「日商簿記一級合格」「税理士事務所などで3年以上働く」などの受験資格を満たす準備が必要です。
日商簿記一級について言えば、税理士試験ほどではないのですが難関であることに変わりはなく、合格までには500~600時間が必要だと言われています。
受験資格については、確認の上、場合によっては税理士試験の勉強する前に別の資格取得をするなどの準備が必要なので注意が必要です。
税理士試験の受験科目の選び方
独学で税理士を目指す場合、受験科目の選択が非常に大きなポイントになります。
税理士試験の受験科目
税理士試験の出題科目は以下の11科目です。自由に選択できるわけではなく、「必須科目」「選択必須科目」「選択科目」という風に分類されています。
必須科目:簿記論・財務諸表論
選択必須科目:法人税法・所得税法(いずれかを必ず選択)
選択科目:相続税法・消費税法又は酒税法・固定資産税・住民税又は事業税・国税徴収法(2科目を選択)
ボリュームだけで選ばない
選択する科目を検討する際、酒税法や国税徴収法などの比較的ボリュームが少ない科目に目が行きがちです。
しかし、それだけに他の受験生も対策がしやすいことを意味します。特に予備校などで詳細な対策をしてくる受験生に比べると不利かも知れません。
ボリュームだけではなく、内容の重複を見極めて、効率よく勉強できる科目を選びましょう。
例えば法人税と事業税、所得税と住民税は試験内容の論点が重複していることが多いため勉強しやすいでしょう。また、自分の得意・不得意を見極めて科目の選択をすることも大切です。
このような、科目選択する上でのポイントは、資格学校などのWEBサイトでも紹介されていますので参考にしてみてください。
科目ごとの勉強法(主要科目)
ここでは、必須科目の簿記論・財務諸表論と、選択必須科目で多くの人が選択する法人税法の勉強法について解説していきます。
簿記論・財務諸表論の勉強法
まずは必須科目の簿記論と財務諸表論についてです。こちらは会計科目になるので、日商簿記2級以上を持っている方には取り組みやすい科目だと言えます。
会計科目はスピード命です。とにかく演習を繰り返して、素早く解くことを身に付けましょう。
また、この2科目は範囲が重複しているので同時受験をおすすめします。
難しい問題は捨ててもいいので、とにかく限られた時間でより多くの問題を解くことに専念しましょう。
法人税法の勉強法
税法科目はとにかく暗記です。
法人税法の試験問題は理論と計算に分かれていますが、まずは基本の論点を固めておきましょう。
理論の勉強の流れは以下のようになります。
その後、理論とのつながりを意識しながら計算問題に取り掛かると、全体を把握しやくなります。
計算問題の勉強の流れは以下のようになります。
法人税法は会計科目との関連性もあるので、比較的勉強しやすい科目といえます。ただ、ボリュームはあるので根気強く勉強することが大切です。
通信講座・予備校がおすすめ
独学は費用が抑えられたり、自分のペースで勉強できるというメリットがありますが、やはり税理士試験に関しては独学はおすすめできません。
税理士試験は非常に難関試験であり、科目選びなど初学者にはどうしたらいいかわからないこともあります。
また、数年に渡る長い闘いの中で、1人でモチベーションを維持するのは並大抵のことではありません。
費用はかかってしまいますが、講座に通うことをおすすめします。
特に通信講座の費用は予備校よりも低価格で、まとまった時間が取れない方でも隙間時間で勉強することができます。
効率的に勉強したいという方はぜひ検討してみてください。
まとめ
では最後に、税理士試験の独学合格についてまとめておきましょう。
- 11科目中5科目に合格しなければならず、それぞれ合格率は10〜20%
- 必要な勉強時間は3000〜6000時間
- 受験科目は論点の重複度で選ぶ
- 独学より通信講座や予備校がおすすめ
税理士試験の難易度は非常に高いものです。
合格率10%台の試験に5科目合格しなければならず、合格までに数年かかることから独学での挑戦は厳しいと言えます。
通信講座や予備校をうまく利用して、自分にあった勉強スタイルをぜひ見つけてください。

監修 浅利 圭佑(税理士)
慶應義塾大学卒。税理士法⼈NEXPERT代表社員。大手予備校税理士講座専任講師、大学非常勤講師、その他セミナー講師等の講師業・講演業の経験多数。